エンジニアリングチェーンとは?概要や主な課題、改善方法などを解説
ものづくりに携わる企業が成長するための手段として、エンジニアリングチェーンに注目が集まっています。では、エンジニアリングチェーンとはどのようなものなのでしょうか。本記事では、エンジニアリングチェーンの概要やサプライチェーンとの違い、改善方法などを解説します。
Contents
エンジニアリングチェーンの概要
まずは、エンジニアリングチェーンの概要から解説します。
設計部門を中心としたものづくりの流れ
エンジニアリングチェーンとは、製造業における設計部門を中心とした製造過程の流れのことです。主に製品の企画・設計・工程・設備設計・生産準備などをメインとした、一連のプロセスを指します。
ただし、エンジニアリングチェーンに含める工程には企業によって差があるので注意しましょう。
参考までに、経済産業省は研究開発、商品企画、製品設計、工程設計、製造の領域を「狭義のエンジニアリングチェーン」、さらに物流や販売・保守サービスを含めた領域を「広義のエンジニアリングチェーン」と定義しています。
エンジニアリングチェーンの重要性
エンジニアリングチェーンの内容は、ものづくりの上流工程にあたるため、製品の品質や生産体制の効率などに影響します。最終的には企業そのものの価値にも影響を及ぼすため、製造業における重要な過程の1つです。
エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの違い
エンジニアリングチェーンと混同されがちなものに、サプライチェーンがあります。ここからは、両者の違いを詳しく解説しましょう。
サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、原材料の調達から生産、供給までの一連の流れのことです。供給連鎖とも呼ばれており、通常は複数の企業の活動によって成り立ちます。
エンジニアリングチェーンとの違い
エンジニアリングチェーンは、サプライチェーンにおける、設計部門を中心とした工程を細分化して詳細にしたものです。
サプライチェーンは顧客が製品を手にするまでのすべての工程を水平的に網羅したものであり、エンジニアリングチェーンはそのうちの設計〜製造工程を切り出して、垂直方向に細分化したものであるとも考えられます。
エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携
製造業における付加価値を最大化するためには、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの連携強化が欠かせません。エンジニアリングチェーンを強化し、サプライチェーンとシームレスにつなぐことで、製品開発の早期化などを目指すことが可能です。
製造業における主なチェーン
製造業には、さまざまなプロセスがあり「◯◯チェーン」と呼ばれています。ここからは、エンジニアリングチェーンとサプライチェーン以外の代表的なチェーンを紹介します。
バリューチェーン
バリューチェーンとは、顧客に製品が届くまでのすべての事業活動を「価値連鎖」として捉えた概念です。事業活動を「マーケティング」「開発設計」「生産」「供給」「顧客フォロー」の工程に分類して、一連の流れのどこでどのような価値が創造されているのか分析します。つまり、バリューチェーンは、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを包括するものと考えられます。
デマンドチェーン
デマンドチェーンとは、消費者側を起点として供給側に遡るプロセスのことです。つまり、デマンドチェーンはサプライチェーンと真逆の流れを指します。デマンドチェーンのマネジメントは、消費者ニーズの把握や流通の効率化に役立つとされています。
DXがエンジニアリングチェーンに与える影響とは?
これからの時代の製造業では、IoTとICTを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)がますます加速していくでしょう。
IoT | Internet of Thingsの略称。あらゆる「モノ」がインターネットとつながる仕組みや技術を指す。 |
ICT | Information and Communication Technologyの略称。ITよりも情報伝達や知識の共有といったコミュニケーションの側面が強い。 |
Iotで収集した情報はエンジニアリングチェーンにおける工程にも反映し、新たな付加価値の向上につなげる必要があります。また、エンジニアリングチェーンのPDCAサイクルを円滑に回すためにも、ICTを活用した仕組みづくりが重要です。
エンジニアリングチェーンにおける主な課題
エンジニアリングチェーンでは、次のような課題を抱えているケースが少なくありません。
情報伝達がスムーズにいかない
製造業における設計部門は、データや情報の管理が個人に依存しやすい傾向があります。アナログな管理をしているがために、各工程で懸念事項や課題を共有しにくいという現場もまだまだ多いでしょう。
情報伝達がうまくいかないと、作業の手戻りが発生しやすい点もデメリットです。
情報共有と作業工程管理が連動していない
設計部門と製造部門のコミュニケーションが不足しており、細かい連携がとれていないケースは多くあります。また、それぞれが異なるITシステムを導入しているために、システムの連携ができないこともあるでしょう。
このように情報共有と作業工程管理が連動していないと、生産性や品質の低下を招きかねません。エンジニアリングチェーンを強化するためには、部門を横断した情報共有と作業工程の整備が必要です。
成果物の管理がうまくいかない
エンジニアリングチェーンの各工程において、成果物のバージョン管理がうまく機能しないことも多いでしょう。すると、工数を正確に把握しづらくなり、余計な手間がかかるなど作業効率の低下につながります。こうした課題に対応するためには、リアルタイムに成果物のバージョンを共有できる仕組みが必要です。
エンジニアリングチェーンを改善する方法
ここからは、エンジニアリングチェーンを改善する方法を紹介します。
情報のデジタル化とデータ管理体制の構築
エンジニアリングチェーンの改善を目指すなら、情報をデジタル化して一元管理し、部門を横断して共有できる仕組みを整えるとよいでしょう。
とくに、設計諸元と設計成果物のデジタル化は重要です。中小企業は補助金を利用できる場合もあるので、積極的に取り組みましょう。
エンジニアリングチェーンマネジメントを強化する
エンジニアリングチェーンマネジメントとは、製品に関する情報をプロセスや部門を超えて共有し、全体最適化を実現する経営管理手法のことです。Engineering Chain Managementを略して、ECMと呼ぶこともあります。
エンジニアリングチェーンを改善するためには、エンジニアリングチェーンマネジメントの強化が不可欠です。また、デジタル化の施策だけでなく、経営者が設計部門と問題意識を共有することも重要となります。
エンジニアリングチェーンマネジメントが求められる2つの理由
エンジニアリングチェーンマネジメントが求められる背景には、次の2つの理由があります。
1.顧客ニーズの多様化
近年は顧客ニーズの多様化が進み、従来の大量生産・大量消費から多品種少量生産へと変化しています。ただし、顧客ニーズは移り変わるものなので、この傾向がいつまでも続くとは限りません。絶えず変化を続ける顧客ニーズに対応するため、製造業には開発サイクルの高速化や新しい価値の創造が求められます。
2.価格競争の激化
国際競争は激しさを増し、日本よりも原材料や人件費を抑えた国でも、製品の品質が向上しています。低コスト化が進み、価格競争が激化しているなかで生き残るためには、生産効率を高め、コスト削減を実現するためのエンジニアリングチェーンマネジメントが不可欠です。
エンジニアリングチェーンマネジメントを活用するメリット
エンジニアリングチェーンマネジメントを活用すると、次のようなメリットを期待できるでしょう。
- プロジェクトの全体像や進捗状況の可視化
- リソースの最適化・コスト削減
- 成果物の品質向上
それぞれのメリットについて、以下で詳しく解説します。
プロジェクトの全体像や進捗状況の可視化
エンジニアリングチェーンマネジメントに取り組むと、プロジェクトの全体像や進捗状況が可視化されることで、各プロセスやタスクごとの進捗管理が容易になります。
プロジェクト全体を把握しながら、状況に応じた調整や対策が可能になるでしょう。また、ワークフローの見直しや構築も容易になり、業務効率を高められます。
リソースの最適化・コスト削減
プロセスやタスクの依存関係や作業手順が明らかになることで、リソースの配分やスケジュール管理を最適化することも可能です。その結果、余計なコストの削減につながるでしょう。業務効率が高まることで人的コストも低減され、コストを意識した設計も容易になります。
成果物の品質向上
プロセスや部門を超えた情報共有が促進されることで、ベテランのナレッジを吸収する、過去のトラブルを生かすなどの方法により、成果物の品質が高まります。成果物の品質が高まれば、性能や信頼性の向上にもつながるでしょう。また、サプライチェーンにおけるリードタイムも確保しやすくなります。
まとめ
エンジニアリングチェーンとは、設計部門を中心とした製造過程の一連のプロセスを表す言葉です。ものづくりの上流工程にあたり、製品の品質や生産体制の効率などに大きな影響を及ぼします。
エンジニアリングチェーンをマネジメントすることは、リソースの最適化やコスト削減、成果物の品質向上など、さまざまなメリットをもたらします。さまざまな角度からエンジニアリングチェーンの改善に取り組み、企業の成長につなげましょう。
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