SES契約書とは|利用が多い準委任契約の特徴や記載内容のポイント、注意点を解説
業務委託契約の一種であるSES契約書では、準委任契約書が多く利用されています。準委任契約書を理解するためには、他の業務委託契約書との違いを把握しておくことがポイントです。また、準委任契約も二つに分類されており、それぞれで目的や用途が変わるので注意が必要です。本記事では、SES契約書で多く使用される準委任契約書のメリットやデメリット、作成でのポイントについて解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
Contents
ITインフラ構築での締結が多いSES契約とは
IT業界における雇用形態の一つであるSES契約について解説します。
システムエンジニアリングサービス契約の略称
SES契約のSESとは、「システムエンジニアリングサービス(System Engineering Service)」の略称です。ITインフラ構築について、Slerやシステム会社、あるいは個人のエンジニアに依頼をするときに締結する業務委託契約を指します。
受託会社(ベンダー)がエンジニアに対して、クライアントのオフィスなどでサービスを提供することが特徴です。
準委任契約が利用される
SES契約では、準委任契約が多く利用されています。民法上の準委任契約では、成果物の完成を目的とせずに、委託業務への技術者の労働の提供を目的としています。ある一定期間に必要数の技術者を提供し、その時間と人数に応じた委託費用を支払うのが特徴です。
業務委託契約の種類と準委任契約との違い
準委任契約を理解するためには、他の業務委託契約書と異なるポイントについて把握する必要があります。ここでは、業務委託契約の種類と準委任契約との違いについて解説します。
委任契約との違い
委任契約は、法律行為を委託する契約であり、業務の遂行と納品を目的としています。主に訴訟行為代理を弁護士へ依頼、名義変更登記を司法書士へ依頼といった法律行為の委託などに利用されます。
一方、準委任契約は、事実行為(事務処理)などの契約で利用されており、法律行為以外を委託する契約に利用されるのが特徴です。(民法656条の規定)
請負契約との違い
請負契約は、仕事の完成を目的としており、成果物の納品に対価が支払われる契約です。仕事を完成できなかった場合には、請負人である受託会社(ベンダー)は、債務不履行責任を負う必要があります。
主に、建設工事や運送業務、ソフトウェアなどの開発業務などに利用されています。
派遣契約との違い
派遣契約は、労働力の確保を目的に人材派遣会社と結ぶ契約です。受託会社(ベンダー)が労働者に対して業務指示をする準委任契約と違い、派遣先が派遣スタッフに対して業務指示できるのが特徴であり、指揮命令系統が大きく異なります。
派遣契約では、派遣先の指揮命令下に入るので、派遣先の就業規則や職場のルール、指示に従う必要があります。
SES契約は、指揮命令権が受託会社(ベンダー)にあるため、現場に作業者が2人以上おり、かつ、労働者の管理が厳密に行われていることが必須です。
準委任契約の2分類
SES契約で多く利用される準委任契約は、「履行割合型」と「成果完成型」の2種類に分類されます。それぞれの特徴について解説します。
労務に対し報酬を支払う「履行割合型」
履行割合型は、依頼を受けた受託会社(ベンダー)が、業務を行なった労働時間や労働力、工数に応じて報酬を支払うことを約束する契約形態です。
報酬の対象は、労働力や労働時間を提供して、業務をしっかりと行うことであり、業務の完了義務はありません。また、依頼を受けた受託会社(ベンダー)は、依頼者の指揮命令下や時間管理下に入る必要もありません。
成果に対し報酬を支払う「成果完成型」
成果完成型は、依頼を完了することで依頼者が報酬を支払うことを約束する契約形態です。準委任契約なので、請負契約のように「仕事を完成させる義務」自体が発生せず、業務の完了義務もありません。
「業務の完了」に対して報酬を支払う点では請負契約と同様ですが、業務が完成しなかった場合には、クライアント側が得た利益の割合に応じた部分報酬となるため、クライアント側にとってリスクが低いのが特徴です。
SES契約書を準委任契約書で作成するメリット・デメリット
SES契約で準委任契約書を利用するのは多くのメリットが存在しますが、もちろんデメリットも発生します。
ここからは、SES契約を準委任契約書で作成するメリット・デメリットについて解説します。
クライアント側のメリット・デメリット
SES契約で、準委任契約書を利用する際のクライアント側に発生するメリット・デメリットは次のとおりです。
【メリット】
- 従業員の教育コストや労務管理が必要ない
- 専門分野をプロに任せられる
- 派遣契約と比べて期間の制限がなく、人数の制限もない
- 一部の工程毎に依頼できる
【デメリット】
- 業務の進行は受託側が管理するため、発注者側は指揮命令をすることができない
- 結果に関わらず、報酬の支払いが必要
- 瑕疵担保責任が発生しない
仕様変更やコスト管理などに柔軟に対応しやすい分、指揮命令下に入らないことや報酬支払いが必ず発生する点に注意が必要です。
ベンダー側のメリット・デメリット
SES契約で、準委任契約書を利用する際のベンダー側に発生するメリット・デメリットは次のとおりです。
【メリット】
- エンジニア自身の裁量で仕事ができる
- 成果物を出す必要はない
【デメリット】
- クライアントからの解約が容易なので、契約を打ち切られてしまう可能性もある
- 善管注意義務が生じるため、可能な限り結果を出す努力が必要
業務の進行に縛りが無く、エンジニアが自身のペースで仕事ができる分、契約を継続できるか否かが関わってくることを認識しておく必要があります。
SES契約書に印紙税が必要なケース
SES契約では、原則的に印紙は不要ですが、第1号文書「無体財産権(特許権や商標権など)の譲渡に関する契約書」と第7号文書「売買の委託に関する契約書」や「売買に関する業務の継続委託に関する契約書」に該当する場合には課税対象となります。
また、第7号文書に該当する場合の印紙税は、一律4,000円です。
【印紙税額の一覧表】
記載された契約金額 | 印紙税額 |
1万円未満(※) | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1,000円 |
100万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超える場合 | 60万円 |
契約金額の記載がない場合 | 200円 |
※第1号文書と第3号文書から第17号文書とに該当する文書で第1号文書に所属が決定されるものは、記載された契約金額が1万円未満であっても非課税文書として扱われません。
※参考:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
SES契約書の作成で知っておきたい4つのポイント
SES契約書を作成する際には、失敗やトラブルを避けるために必要なポイントがいくつか存在します。SES契約書を作成する際の知っておきたいポイントは以下の4つです。
1.業務内容と契約期間・契約解除
どのような業務を行うのか、遂行する手順やルールも含めて具体的に記載することがポイントです。SES契約において、業務内容が明確に定められていない場合、ベンダーとクライアント間でトラブルが発生する恐れがあります。また、契約期間や更新方法(自動更新など)だけでなく、契約解除ができる条件についても明記することが重要です。
2.報酬や経費
ベンダーとクライアント間のトラブルで、発生しやすいのが金銭トラブルです。報酬の額と報酬の支払い時期、支払い方法についてしっかりと明記します。また、経費をクライアントが負担してしまうと、違法な労働者派遣と判断されるケースがあるため、経費がベンダーが負担することを明示しておくのがポイントです。
3.著作権の帰属と秘密保持
エンジニアによる業務の遂行により、著作権が生じるケースがあります。ベンダーとクライアント間でのトラブルを避けるためにも、業務課程で発生する著作権をはじめとした知的財産権について、帰属先を明記しておきましょう。
また、業務で開示されたクライアントの情報や知り得た情報の取り扱いやルールについても、秘密保持を定めておくのがポイントです。
4.協議条項や損害賠償、禁止事項
それぞれの項目についての必要な記載内容は次のとおりです。
- 協議事項:契約書に記載されていない事柄が発生したときの対応方法を明記
- 損害賠償:契約違反など、相手方に損害が発生した場合の損害賠償を記載
- 禁止事項:業務遂行に当たって、禁止項目があれば記載
偽装請負に注意する
偽装請負とは、契約書のタイトルでは準委任契約としておきながら、実質的には発注者(クライアント)の指揮命令を受けて業務を行なっている場合などが該当します。準委任契約では、発注者(クライアント)の指揮命令が禁止されています。業務委託のルールを明確に理解し、偽装請負が起こらないように契約書を定めるのが重要です。
受任者によって成果物の完成を義務付けられている、指揮命令権が発注者にあるなどの場合は、偽装請負の恐れがあるので注意してください。
まとめ
SES契約をしっかりと理解して契約書を作成しないと、クライアントとベンダー間での業務や報酬に関するトラブルや偽装請負が発生する恐れがあります。このようなトラブルや失敗を避けるためにも、SES契約や準委任契約についての正しい知識が必要です。
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