SESで偽装請負と判断されないために|準委任契約と派遣の違い、注意点を解説
クライアント企業にSEを常駐させる場合に利用されるのがSES契約です。現在、SES契約でありながら、労働者派遣と同じようにクライアント企業が指揮命令している「偽装請負」が問題視されています。そもそもSES契約と労働者派遣の違いがわからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、SES契約の概要から偽装請負とならないための注意点まで解説します。ITエンジニアの増員を考えている方は、参考にしてみてください。
Contents
SES契約(システムエンジニアリング契約)とは
まずは、SES契約(システムエンジニアリング契約)について詳しく解説します。
SES契約の契約形態
SES契約とは、クライアント企業に対して、ITエンジニアが自身のスキルや技術を活かして業務に参画する契約です。契約形態は業務委託であり、主に準委任契約が用いられています。決まった時間のなかで技術を提供し、報酬を得ます。「労働力の提供に対して報酬が発生し、成果物の完成に対する義務は負わない」点が、SES契約の特徴です。
SES契約(準委任契約)とほかの業務委託との違い
業務委託には、SES契約(準委任契約)以外にも種類があります。ここでは、業務委託の種類と、SES契約との違いを解説します。
SES契約は準委任契約が多い
SES契約は準委任契約が多い傾向にあります。民法656条によると、準委任契約は法律行為ではない業務を委託する契約のことです。
準委任契約には成果物の納品義務はありません。クライアント企業は、SES契約をしているITエンジニアの工数や作業時間に対して報酬を支払います。また、クライアント企業には契約者への指揮命令権は認められておらず、ITエンジニアは自社(ベンダー)の責任者の指示に従います。
請負契約との違い
「請負契約」は、民法632条により、以下のように記されています。
「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」
準委任契約には納品義務はありませんが、請負契約は成果物を完成させる義務を負います。完成させない場合は債務不履行となってしまいます。
労働者派遣契約との違い
「労働者派遣契約」とは、労働者派遣法に則った契約締結のことで、派遣会社がクライアント企業へ労働者を派遣する契約です。労働派遣法2条1号には、以下のように示されています。
「労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」
労働者は派遣先(クライアント)の指揮命令で仕事をしますが、雇用契約は派遣元と結びます。労働者の給与は派遣元が支払います。
また、労働者派遣事業を行うには、厚生労働大臣の許可が必要です。
SES契約で注意が必要な偽装請負とは
SES契約は、場合によっては偽装請負と判断されてしまう恐れがあります。SES契約で注意が必要な点を、しっかり押さえておきましょう。
請負契約とは
厚生労働省より「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」として、労働者派遣と請負契約の区別の基準が示されています。これによると、以下2点に該当する場合は請負に当たるとしています。
- 自己の雇用する労働者の労働力を、自ら直接利用するものであること
- 請負契約により請け負った業務を自己の業務として、当該契約の相手方から独立して処理するものであること
※参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準|厚生労働省
SES契約と偽装請負
クライアント企業と準委任契約を締結しているにもかかわらず、クライアント企業が直接ITエンジニアに指揮命令を行っている場合は、SES契約ではなく偽装請負と判断されます。また、クライアント企業から業務に必要な備品や機材などを提供している場合にも、偽装請負と判断されるケースがあります。
偽装請負の罰則やリスク
偽装請負の罰則やリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。ここではベンダー側、ユーザー側のリスクを詳しく解説します。
SES事業側(ベンダー)のリスク
SES契約を結んでいるのにもかかわらず、派遣契約のような働き方をさせてしまうと偽装請負と判断されます。この場合、ベンダーが派遣事業の許可を得ていなければ、1年以下の懲役または100万円以下の罰金(労働者派遣法59条2号)が科されるため注意が必要です。
派遣事業の許可を得ていたとしても、派遣契約締結をしていないという理由で、厚生労働大臣から助言や指導・改善措置命令・是正措置勧告を受ける可能性があります。是正措置勧告に従わない場合には社名公表により、信用力の低下につながる恐れもあるでしょう。
クライアント側(ユーザー)のリスク
労働派遣法第24条の2より、派遣事業の許可を得ていないベンダーの派遣労働者を継続して受け入れると法律違反となり、厚生労働大臣の指導対象となります。勧告に従わなければ事業主名を公表される可能性もあるため注意が必要です。
なお、ベンダー側が派遣事業許可を得ていた場合でも、法律で求められている義務を履行していないと判断されるため、厚生労働大臣の指導対象となります。
また、プロジェクトが中止や遅延が生じ、投資した資本を回収できない、逸失利益(違反しなければ本来受け取れていた利益)などの損害を受けるリスクもあります。
偽装請負にならないための注意点
SES契約では、気付かぬうちに偽装請負になってしまうケースもあります。ここでは、偽装請負にならないための注意点を解説します。
ベンダー側から業務・労働に関する指揮・管理をする
ベンダー側で業務の進め方や段取りに関する指示を行い、仕事の割り振り・労働時間・労働環境の指揮と管理をすることが重要です。たとえば、「クライアントからの指示で◯◯すること」と決めるのではなく、あくまでも「ベンダーからの指示で◯◯すること、クライアント側の規律に従う」とルールを決定・管理するとよいでしょう。
偽装請負にならないためには、契約締結時の慎重な判断が重要です。契約書には、SES契約として適切な規定を記載しましょう。
ベンダー側が業務に必要な備品などの費用や責任を負担すること
業務で使用する資金や備品は、ベンダー側が調達したり費用の負担をしたりする必要があります。クライアント企業から備品が支給されている場合、偽装請負と判断されてしまう恐れがあるため注意しましょう。
また、ベンダーの失敗が原因でクライアントに損害が発生した場合、ベンダー側が賠償責任を負わなければなりません。この規定は、SES契約書にも記載する必要があります。
「専門的知見・技術」はクライアントから独立した立場で提供する
クライアント側から借り入れ、または購入された備品を使用する場合は、SES契約書とは別に「賃貸借契約」といった双務契約を締結します。
また、業務を行う職場の賃貸料や光熱費などの間接経費は、SES契約書中に費用負担の所在や「作業場の利用を認める」旨の規定を設けなければなりません。
SES契約で偽装請負を防ぐポイント
SES契約で偽装請負を防ぐポイントを解説します。SES契約を考えている方は、参考にしてください。
クライアント側の指揮・命令・監督には従わない
現場のITエンジニアは、発注者側(クライアント側)からの指揮・命令・監督には従わないようにします。クライアント企業から指揮や命令を受けた場合は、ベンダー企業(自社)に相談し、ベンダー企業からクライアント企業に改善要請を出すようお願いしましょう。また、業務量が増減する場合も、事前にベンダーに相談します。
面談やメールなど細かい所まで注意すること
偽装請負を防ぐには、ベンダー側・クライアント側の双方で、細かな配慮が必要です。ベンダー側は事前面談を「顔合わせ」とし、スキルチェックをしないようにしましょう。
クライアント企業側では、正社員とSES人員で座席の島を分けると、偽装請負を防ぎやすくなります。また、クライアント企業がSES人員とメールのやり取りをする際は、CCにベンダー側の責任者を入れるようにします。
SESや偽装請負について教育をする
SES契約や派遣契約の内容を正しく理解するため、ベンダー企業・クライアント企業共に社内の教育カリキュラムとして用意するとよいでしょう。
SES契約時には、契約内容や進め方を、双方で確認しておきます。たとえば、SESの指示経路を明確にした体制図や、SESのスケジュール作成手順・業務指示手順などのルールを双方で策定しておくと安心です。
まとめ
何も知らずにSES契約を締結してしまうと、偽装請負と判断されてしまう恐れがあるため注意が必要です。
クライアント側からのITエンジニアへの指揮命令は禁止されており、ベンダー側で行います。また、業務で使用する備品は、ベンダー側が用意する必要があります。偽装請負と判断されると懲役や罰金などのリスクがあるため、現場担当者へSES契約や偽装請負の教育を実施しましょう。
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