IT業界は多重派遣に要注意!リスクや罰則や改善策など基本知識を解説
IT業界は人手不足の状況が続いており、一時的な対策として派遣や業務委託を利用する企業も多い状況です。ただし、派遣や業務委託では多重派遣の問題も発生しやすいため、注意しなければなりません。
この記事では、IT業界の多重派遣の問題や多重派遣の基礎知識について解説します。なお、多重派遣は二重派遣とよばれる場合もありますが、この記事では「多重派遣」とします。
Contents
多重派遣とは
多重派遣とは、派遣契約により自社で働いている派遣社員をさらに別の企業へ派遣することです。多重派遣は法律で禁止されているため、多重派遣と認識しながら契約した企業には罰則が科されます。多重派遣はIT業界やWeb業界などで特に起こりやすいため、派遣を利用する際は注意が必要です。
多重派遣の状態とは
多重派遣とは、どのような状態なのでしょうか。人材派遣の仕組みやSESの違いなどとともに解説します。
人材派遣の仕組み
人材派遣は、派遣元が派遣社員を雇用し、ほかの企業へ派遣する契約です。派遣元と派遣社員は雇用契約を結び、派遣社員を受け入れる企業は派遣元と派遣契約を交わします。派遣社員は、派遣された企業の指示に従って働きます。
ただし、派遣社員の雇用先はあくまでも派遣元であり、給料は派遣元から振り込まれる仕組みです。また、福利厚生についても、派遣先の企業ではなく派遣元の制度が適用されます。
多重派遣の状態
多重派遣とは、派遣先の企業が派遣社員に命じ、取引先へさらに派遣することです。派遣社員に取引先の業務そのものを行わせた場合、多重派遣とみなされます。より具体的にいえば、派遣社員に対して取引先が業務に関する指示を出しているなら多重派遣となります。
SES契約との違い
SESは、エンジニアとしての業務の請負や準委託などの業務委託の方法です。「システムエンジニアリングサービス(System Engineering Service)」の頭文字をとり、SESとよばれています。
エンジニアは取引先に出向いて働きますが、指示を出す権利はあくまでもエンジニアを雇用している企業にあります。取引先は、エンジニアに対して具体的な指示を出せません。
SESを装いながら取引先がエンジニアに細かい指示を出している場合、法律違反となります。
多重派遣に該当するケース
どのような状況が多重派遣に該当するのでしょうか。ここでは、多重派遣に該当するケースについて解説します。
派遣社員を取引先に派遣させる
自社で働いている派遣社員を取引先へ派遣すると、多重派遣に該当します。たとえば、社内の仕事が回らないために自社の正社員を取引先へ出向させられない状況で、やむを得ず派遣社員を取引先へ行かせる場合です。
派遣社員は、雇用契約や派遣契約を結んでいない企業から指示を受けて働くことはできません。具体的なルールが曖昧になりがちであるため、派遣元と企業の派遣契約において詳細を確認しておく必要があります。
派遣社員を関連会社に勤務させる
派遣社員が働ける場所は、派遣元と派遣契約を結んだ企業のみです。企業の関連会社に派遣社員を勤務させた場合も、多重派遣とみなされます。派遣元と派遣契約を結んだ企業と関連会社は、あくまでも別の企業だからです。派遣社員は、派遣元と派遣契約を締結していない企業では働けません。企業が派遣社員の配置転換を行う際は、法律に違反しないか確認が必要です。
SES契約において指揮命令を行う
派遣社員をSES契約で出向させる場合、基本的に多重派遣には該当しません。ただし、SES契約では、派遣社員を出向させる企業が指揮命令権をもっています。そのため、SES契約にもかかわらず、派遣先となる取引先が指揮命令を行うと、多重派遣に該当する可能性があります。また、形式的な業務請負として偽装請負とみなされる恐れもあるため、注意が必要です。
SES契約を交わす際は、多重派遣や偽装請負などとの違いを理解しておきましょう。
多重派遣になりやすい業界とは
どのような業界で多重派遣が発生しやすいのでしょうか。ここでは、多重派遣に陥りやすい業界について解説します。
IT業界
IT業界のなかでも、SIerでは多重派遣が生じやすくなっています。SIerとは、顧客からの依頼により受託開発を行う企業です。さまざまな分野の下請け企業があり、業務に適した人材を常駐させるケースがよくあります。常駐させる派遣社員に自社が指揮命令を出せば問題ないものの、常駐先の指示に従う状態になると多重派遣に該当します。
製造業界
製造業界では、繁忙期になると作業のボリュームが大幅に増加します。そのため、状況に応じて自社が受け入れている派遣社員を別の企業に出向させ、作業に対応するパターンが発生しやすいでしょう。派遣社員が別の企業の指揮命令により働くと多重派遣とみなされます。
多重派遣が禁止される理由
多重派遣が禁止されている理由は派遣社員を守るためです。いくつかの理由を具体的に解説します。
派遣社員の給与が下がる
多重派遣が行われると派遣元と業務の仲介が増えるため、その分だけ手数料も多く発生します。通常は派遣元と企業の間でのみ手数料が発生しますが、関与する企業が増えればその企業との間にも手数料が発生するでしょう。その結果、手数料が派遣社員の賃金から差し引かれ、派遣社員が受け取れる給与が下がる恐れがあります。
雇用責任の所在が不明瞭になる
多重派遣では、どの企業が派遣社員の雇用責任を負うのか不明瞭になります。責任の所在が明らかでない場合、派遣社員に関する問題やトラブルが発生した際に、企業同士で責任のなすりつけが生じる恐れがあります。必要な対応が遅れるリスクがあり、派遣社員が不利益を被るリスクがあるでしょう。
業務内容・労働条件が守られないこともある
通常の派遣では、派遣元と派遣社員は雇用契約、派遣元と派遣先企業は派遣契約を結びます。それぞれで雇用や派遣に関する契約内容を定めます。しかし、多重派遣に陥った場合、第三者の企業が関与するため、当初の契約内容を実現できない可能性が出てくるでしょう。多重派遣の禁止は、派遣社員の負担の増加を防止するためにも必要です。
多重派遣の罰則
多重派遣に関しては、各法律で罰則が規定されています。以下で詳しく解説します。
職業安定法第44条
職業安定法第44条では、一定の条件を満たす場合以外は「労働者供給事業」を行ってはならないとしています。派遣先の企業と派遣社員の間には雇用関係が成立しておらず、派遣社員を別の企業へさらに派遣する行為は違法です。
多重派遣については、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。罰則の対象は、違法な派遣を行った企業と派遣を受け入れた企業の両方です。ただし、派遣を受け入れた企業が二重派遣であると知らなかった場合、罰則は科されません。
※参考:職業安定法第44条
労働基準法第6条
労働基準法第6条では人材の派遣による中間搾取が禁止されており、多重派遣は認められていません。多重派遣では、派遣先の企業が別の企業に派遣社員を派遣する際に中間手数料が発生します。この中間手数料が中間搾取に該当します。
派遣先の企業が手数料を得てはいけない理由は、派遣先の企業と派遣社員の間に雇用関係がないためです。派遣元と派遣社員は雇用契約を結んでいるため、派遣元が派遣先の企業から手数料を受け取ることが認められています。派遣先の企業が多重派遣により中間手数料を得た場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
※参考:労働基準法第6条
誰が罰則を受けるのか
職業安定法第44条の違反について罰則を受ける対象者は、すでに触れた通り、派遣先企業および再派遣を受け入れた企業の両方です。再派遣を受け入れた企業が多重派遣の事実を知らなければ、罰則は科されません。また、労働基準法第6条の違反について罰則を受ける対象者は、派遣社員を再派遣した派遣先企業のみとなっています。
企業が多重派遣を避けるためには
企業が多重派遣を避けるには、どうすればよいのでしょうか。具体的な対策について解説します。
定期的に契約内容や勤務実態を確認
多重派遣を発生させないためには、企業が多重派遣についてよく理解し、契約内容や勤務実態を定期的に確認する必要があります。特に重要なのは、誰が派遣社員に対して指揮命令を行っているかです。契約内容に反する勤務実態が発生していないか、入念にチェックしましょう。
派遣社員を直接雇用に切り替える
多重派遣を避けるために、派遣社員を直接雇用に切り替える方法もあります。派遣元と派遣社員は雇用関係にあるものの、実際は派遣社員と派遣先の企業の結びつきのほうが強くなりがちです。そのため、多重派遣が発生しやすくなっています。派遣社員への聞き取りにも力を入れつつ、直接雇用についても検討しましょう。
まとめ
多重派遣は法律に違反する行為であり、違反した企業に対する罰則も設けられています。多重派遣についてよく理解したうえで、多重派遣を発生させないよう注意しましょう。
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